2015年08月27日

思いつきでラブコメを読まないオレがラブコメを書いてみた。


 描いてたネームとか新しく書いたプロットがボツったので、息抜きに他の事をしようと思いました。
今回は、ラブコメを読まないというか、ラブコメ死ねよと常々思っている僕がラブコメに挑戦してみようと思いました。
特に深いことは考えず、ラブコメって多分こういうものじゃないかなあという勢いだけで書きました。
書き方もそれなりに青少年のポエミィな感じを折り込もうと努力しました。
書いた後で少し思ったのですが、ああ、ラブコメもそんなに悪いものではないのかなと。
ちなみに、キャラクターの身体的特徴などはめんdあえて描写していないので、想像にお任せします。
あと、今朝ついに女装少年に騙される夢を見ました。

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  「好きです、私と恋人になってください!!」
 放課後の校舎裏、謎の手紙に呼び出された僕は理解不能の告白を受けた。
 身体が貧弱で、他人に誇れるような目立った長所も持たない僕にとって、これは生まれて初めての経験であった。
 心舞い上がるよりも前に、警戒信号を強烈に脳が発してしまう。
 何せ、今回の呼び出しもまたいつものイジメか何かだろうと覚悟を決めてきていたのだ。
 (また、あいつらの仕業か!?)
 僕を見つめる少女よりも、周囲の様子が気になって仕方がない。
 「あの、やっぱり、ダメでしょうか……。」
 彼女に応える余裕すらなかった僕に、彼女が更に一押ししてくる。
 「い、ええ、その。」
 「ごめんなさい、今日のことは忘れてください!!」
 上手く言葉が絞れない僕を、迷っているように見えたのか彼女は身を引こうとする。
 その瞳からうっすらと涙が伝っていた。
 「ち、ちち違うんだ、そ、その、突然だったから驚いて、ぼ、僕なんかで良いのなら。」
 「本当ですか!?」
 これが僕と彼女は恋人同士になった、何のことは無いあらましである。
 ごく普通の、ごく平凡な、そして純粋な始まりだった。
 
 
 
  初めに、彼女のことを話そう。
 彼女はそう、僕らの通う公立の高等学校のクラスメートだ。
 僕と彼女は比較してみると様々なことに共通点を持っている、が、その理由は概ね対照的なものである。
 例えば二人共に部活動にも参加していないが、どこのグループの輪にも入り込めない僕と、どの部も欲しがる程の運動能力を持ちつつも部活動に興味がない彼女。
 例えば二人共にクラスの中では浮き勝ちだが、周囲から冷ややかな軽蔑な目で見られる僕と、畏怖と尊敬の念により近づきがたい雰囲気を持つ彼女。
 例えば二人共に学校を度々休むことがあるが、煩わしい学校行事から逃げる僕と、ケンカに明け暮れる彼女。
 もっとも、彼女がケンカで怪我をしたことは一度もないらしいが。
 彼女は言うなれば、最強の身体能力をもつ一匹狼の不良だ。
 この町の喧嘩自慢程度の奴らは、彼女が前に現れればすぐに道を開ける程の。
 そんな彼女が何故、僕に対して恋心を抱くのかは分からないし、それを尋ねてしまうと何かが終わってしまうようで怖い。
 結局僕はその理由を彼女の口から聞くことは無かった。
 だが、恋人になった瞬間から猛プッシュでベッタリしてくる彼女の姿は、普段の立ち振る舞いからは想像できない程に意外で、その甲斐甲斐しさは他者と関わりを持たない僕にとっては何よりも可愛らしく映った。
 お昼には彼女の作った弁当を食べるようになったし、帰り道は学校であった出来事等を語らい、夜は電話で宿題の分からないところを教え合った。
 気が付けばいつも彼女と共に過ごし、彼女のことを考えるようになっていた。
 僕のこれまでの退屈で鬱蒼とした人生は、一挙に華やかなものへと変身したのである。
 何かにつけて障害にぶつかる度に卑屈になった僕の思想も、彼女のお陰で徐々に前向きになり始めていた。
 
 
 
  だが、それを快く思わない人間が多いのも僕のクラスである。
 僕が小テストで満点を取って先生に褒められた日の事、僕は3人のクラスメートに体育倉庫に連れ込まれることになる。
 「よお、もやし。最近なんか景気よさそーじゃん。」
 3人のクラスメートの一人が、僕の頭を跳び箱に叩きつける。
 ちなみに『もやし』とは彼らのつけた、僕のあだ名である。
 「こいつ毎日毎日、姫野とイチャコラやって調子のってんだよ。少し自分の立場ってのを思い出させてやろうぜ。」
 「気に入らねーんだよヘラヘラしやがってよ。」
 倉庫の隅に片づけられた金属バットを引っこ抜くと、それを僕の尻に向けてスウィングする。
 パンッと鈍い音と共に僕はその痛みに飛び上がった。
 「ハハハ、漫画みたいに飛び上がるんだな!!」
 3人が僕を笑い飛ばすと、悲しさや悔しさ、怒りで涙が溢れてきた。
 怒り。
 この怒りと言う、今まではただ嫌で堪らなくて耐えるだけだっただけの僕に初めて生まれた、理不尽に立ち向かう為の感情が芽生えた。
 「なんだぁその目はよ。やるってのかあぁん?」
 「もやしが!! ぶっ殺すぞコラァ!!」
 今度はグーの拳が顔面向けて飛んでくる。
 僕は歯を食いしばって、目を瞑って、一つの反抗の意志を示すが如く頭を思い切り前に突き出した。
 案の定僕はぶっとばされて、2メートルも離れた運動マットの束に飛び込む羽目になった、が。
 「イッテェ!!」
 僕を殴りつけてくれたヤツの拳は、僕の頭突きをもらって痛がっていた。
 「この……カスがぁ!! 生意気なんだよ!!」
 「アバラ叩き折ってやんよクソがぁ!!」
 「脱がして吊るすぞコラァ!!」
 当然の事ではあるが、僕のただ一つの反撃はより彼らを怒らせただけであり、その暴力は苛烈なものになっていった。
 「王崎くん!!」
 彼女の声だ。
 彼女が僕を呼ぶ声がする。
 叫びと共に体育倉庫の扉に力が込められるが、それは扉の鍵をガチガチと鳴らすだけだった。
 「チッ、姫野のヤツが嗅ぎつけやがったか。鍵がかけてあるから開けられねーよバーカ。」
 キリキリと扉の軋む音がする。
 「なんだこの音……おい姫野!! テメェ何やってやがんだ!!」
 バギンと鋭い金属音が響き、扉と鍵を繋ぐ金具が引きちぎれる。
 その後は、無抵抗となった体育倉庫の扉は為すがままにカラカラと押し広げられた。
 「コイツ、筋力で無理やりこじ開けたのかよ!!」
 「ひ、ひめの……さ――」
 扉の先の彼女と目が合った。
 その形相は鬼、般若、怪獣、もはやなんでもいい、とにかくそんな言葉が似合いのとてつもないものであった。
 「オ、マ、エ、ラ……。」
 誰もが唇から雑音を流すべきではないと悟る。
 今はもう、そのような状況ではないのだ。
 固唾の一つでも飲みたいところではあったが、彼女はそのような暇すら与えてはくれなかった。
 空を切る回し蹴り、学生服がスカートなのでやってしまうと見えてしまう、あの蹴りである。
 そのある意味ロマンにもあふれた技は、特に誰に触れることも無かった。
 誰にも触れなかったからこそ、僕らは今後も平凡な学校生活を送ることができたし、血なまぐさいトラウマなんかとも無縁でいられた。
 なにせ、その蹴りの風圧だけで3人哀れなクラスメート達は倉庫の深奥の壁に3つの人型の窪みを作ったのである。
 「ごめんね王崎くん!! 遅くなってごめんね!!」
 彼女は泣きそうになりながらハンカチで僕の顔を拭う。
 「……ぐすっ。」
 僕は何も言えず、ただただ肩を震わせた。
 助かった、という安堵からではない。
 怖かった、という恐怖からでもない。
 これは悔しかった、という無念である。
 僕が守りたいと思う彼女に救われた、男としての意地である。
 この日、僕は肩を貸そうとする彼女の善意を断り、自らの足だけで家路に着いた。
 
 
 
  もし仮に、悪魔と契約して何かを犠牲にしてでも手に入れたいものがあるとして、何を望むだろうか。
 僕の場合は、力を望んだ。
 誰にも負けない強い力を。
 近年、インターネットによる人々の交流が活発になり爆発的な情報が流通するようになった。
 料理の仕方や引っ越しの心得等の生活の役に立つものから、妄想をこじらせた子供じみたゴシップまで、それは多岐に渡る。
 もはやその情報量は人間の記憶量を遥かに溢れており、何が真実なのかは実際に目の当たりするまでは誰にも分からない状態にあると言える。
 中には、以前はアンダーグラウンドと呼ばれた深い位置にしか存在し得なかった情報すらも掘り起こされ明るみに出ている。
 ただし、その殆どは眉唾もので、ただのラクガキのようなものだ。
 しかしながら、今日僕は幸運なのか不運なのか、その中で当たりを引いてしまった。
 "神奈川県の博物館に本物の悪魔の書物があるらしい"
 僕は特に博物館等に足を運ぶほど熱心な勉強家ではないが、もし願いが本当に叶うならば、そうでなくとも今の気分を少しでも紛らわせることが出来るのならばと考え、休日をまるまる使ってその博物館を探し当てた。
 その本は魔女の書いた書物として黄色いチェーンの向こうに安置されていた。
 博物館そのものの独特なものなのか、その本が漂わせているものなのかは分からないが異臭が鼻をつんとさせる。
 一見ではただの薄茶色の装丁のされた古ぼけた本ではあるのだが。
 事を起こす前に、咎められても厄介なので周囲を確認する。
 休日にも拘わらずこの博物館はそれほど人入りが無いようで、同室にも家族連れが1組、学生が1人といったところだ。
 特に人の目が届かないことを理解すると、僕は指先をちょいと安全ピンで突き刺す。
 人差し指の先から赤い血がぷっくりと小さな山を作るのとほぼ同時に僕の携帯が音を鳴らした。
 彼女からのEメールだ。
 自慢ではないが、本当に自慢にもならないが僕の携帯電話にメールを送ってくる人間なんて、彼女しかいない。
 慌ててメールを開く。
 「元気? この前は大丈夫だった? また何かあったら私がアイツらぶっ飛ばしてあげるからね。それと、今スーパーまで買い物に来てるんだけど、何か好きな物ない? 明日のお弁当のおかずに迷ってるんだ。」
 彼女にはいつも心配ばかりかけている。
 僕は少し顔を綻ばせ、携帯電話を仕舞う。
 メールは後で返すとして、今は血が流れ出っ放しだ、早く用事を済ませておこう。
 僕は人差し指に溜まっている血を爪で弾いて本にぶつけた。
 そして手を組んで、先日の怒りを煮えたぎらせ、想いの限り祈る。
 (強くなりたい、オレにもっと力を。力を…力を!!)
 「我と取引をするか。」
 その願いに応える者が居た。
 「目を開くな、そのまま閉じていろ。もう一度尋ねる、我と取引をするか。」
 声に従い光をシャットアウトしている為、誰が居るのか確認は出来ない。
 しかし、その声は確かに聞こえるのだ。
 (力が欲しい、強力な力が欲しい。)
 「良いだろう、貴様に力をくれてやろう。」
 それっきり、声は聞こえなくなった。
 すぐさま自身の身体を確認してみるも、特に変化はなかった。
 自分の弱さが生み出した幻聴であったのだろうか。
 こんなもんだよなと肩を落とし、溜息をひとつついて僕は帰って宿題でも片づけることにした。
 
 
 
  通学途中の朝でのことである。
 いつもなら通学路の途中で彼女が僕を待っているのだが、今日は違った顔ぶれが雁首を揃えていた。
 「おう、もやし。ちょっとツラかせや。」
 僕をリンチしたクラスメートの3人である。
 そのうちの一人が、包帯を巻いた自分の拳を見せつけてはスリスリと撫でまわしている。
 先日の頭突きの一件を未だに根に持っているようだ。
 僕は咄嗟に目を逸らす。
 「何シカト決め込んでんじゃテメェ!!」
 たったそれだけのことにも因縁をつけてくる一人が、僕の胸倉を掴む。
 服は引っ張られるものの、その行為は犬が甘噛みするかの如く優しく弱弱しい。
 「あ?」
 「?」
 僕も相手もキョトンとした。
 そして軽く半歩足を下げてみれば、その拘束は簡単に解けた。
 「テメェ、何しとんじゃコラァ!!」
 逆上しつつもあまり暴力沙汰が目立たぬように気を使ってか、クラスメートは僕の脛にローキックを放つ。
 これもどうなっているのか、枯れ枝が引っかかった程度の衝撃しか感じられない。
 それどころか、クラスメートの蹴り足の方がやや曲がっているようにも見える。
 「足が!! うああああ!!」
 「何やってんだお前!!」
 狼狽えるクラスメート達を見て、僕はようやく察しがついた。
 (僕は本当に悪魔との取引をしていたのか!!)
 この力を試すように、他のクラスメートの脇腹を軽く殴る。
 ペキペキとした触感が腕を駆け上がると、そのクラスメートは血を吐いた。
 あばら骨が何本か折れてしまったのかもしれない。
 (!)
 思った以上の破壊力に驚きを隠せない。
 すこし茫然として手を握ったり開いたりしていると、残る一人のクラスメートは二人を連れて逃げ出していた。
 それを特に追いかける気はしなかったが、3人とすれ違う形で彼女がそこにいた。
 信じられないものを見たような、だがポジティブな意志を見せない表情だった。
 「あ、あの、これは。」
 彼女はその場でペタリと尻もちをつく。
 「もう、私はいらないね。守る必要がなくなっちゃったもの。」
 「な、何を言ってるのさ、僕は強くなったんだ。だから姫野さんを守ることだって――」
 「先、行ってて。」
 彼女はアスファルトに座り込んだまま両手を地に突き立て頭を落とす。
 僕はその言葉に従い10メートル程進んだが、やはり心配で彼女をそこからずっと見守っていた。
 しばらくして、彼女は立ち上がると学校へ向かって歩き出した。
 僕の眼前を通りかかる際に声をかけようとはしたが、彼女はこちらを気にも留めずに過ぎていってしまった。
 ――それ以来、彼女とは話していない。
 
 
 
  おかしい、やはりおかしい。
 あの一件以来、彼女は僕には興味が失せたように話しかけなくなったし、電話をかけても通じなくなっていた。
 かといって、様子を見る限り他に男が出来たとか言うわけでもなさそうで、彼女と僕は以前と同じようにクラスでは孤立した存在に戻っていた。
 彼女と過ごした甘い記憶だけが蘇っては、ぽっかりと空いた胸の隙間に塩を塗り込んでいく。
 寂しい。
 彼女は見ればすぐそこに居るのに、数メートルもあれば歩いて挨拶だってできるはずなのに、それが彼女に届かない。
 彼女の一挙一動を見つめては、寂しさと虚しさとせつなさだけがこみあげてきて、無気力になる。
 どうしたら以前のように彼女と過ごすことが出来るだろう。
 僕はそのことばかりで頭がいっぱいだった。
 ふうと頭の重さを机に預けようとすれば、その力で机がベキリと割れてしまった。
 この日常的に振るうにはあまりに過ぎたこの悪魔の力も僕は持て余していた。
 何をするにも、ちょっとした弾みで何もかもを破壊してしまうのだ。
 守る者の居ない過ぎた力はなんと虚しく不便なものだろう。
 割れた机に頭を突っ込んだまま、ハッと気づく。
 (守る者の居ない過ぎた力……守る……守る……?)
 彼女の最後の言葉を思い出した。
 「もう、私はいらないね。守る必要がなくなっちゃったもの。」
 ひょっとして、彼女は今の僕と同じなのではないだろうか。
 このクラスで恐らく最も弱い、僕を守ることで持て余した力を発散しアイデンティティを保とうとしたのか?
 (その為に僕に近づいた?)
 これが正しいのかは分からないけれど、何もしないよりは試してみる価値はあるのかもしれない。
 何より、この力は僕にはやはり過ぎた力だ。
 僕は思い立つと、窓を開けて学校を文字通り飛び出す。
 悪魔の力のお陰か、博物館までは駆けて7〜8分でたどり着くことができた。
 汗の一つすらもかいていない。
 件の本を見つければ、前回行ったのと同じように自らの血液を飛ばして強く祈る。
 「何の用だ?」
 またお前かと言わんばかりの調子で何者かの声が耳に入る。
 (オレを弱くしてくれ、頼む。)
 「なんだ、変わったことを言うヤツだ。まぁ良いだろう、ククク。」
 (ありがとう!!)
 「今回は取引料はサービスしてやろう。もっとも、前回頂いたものは返さんがね。」
 (前回頂いたもの?)
 「言っただろう? これは取引だ、ククク。」
 (まさか――)
 思わず口が開いた。
 「お前!! 姫野さんに何かしたな!!」
 「さあね、私は知らんよ。捧げたのは貴様自身だ。私は取引の対価として、その者の最も大切なものを頂いている。何を対価としたか、それは貴様しか分からんよ。それと、悪魔との取引に二度目があると思わない事だ。」
 耳もとで不快な高笑いが反響する。
 「こいつ!!」
 振り払うように腕を回すともう悪魔の声は聞こえなくなった。
 ゆっくりと目を開ける。
 自分の腕が薙ぎ払ったカタチに前方が影も形も無く消えてなくなった光景が広がっていた。
 「う、うそだろ、この力、もっと強くなってるのか!?」
 望みを奪われた僕はその結末に愕然とした。
 
 
 
  「あーテステス。」
 校舎に放送が響く。
 現在は午後の2時を回ったところ、昼休みが終わって皆が5限目の授業に臨んでいる時刻である。
 授業中の空気を切り裂く突如の放送に、学生、教師達は否応無しに耳を傾ける。
 「聞こえるか雑魚共、オレ様は1年B組の王崎。今日からこの学校を支配するものよ。男はオレに金を献上しろ。女はオレのモノになるなら許してやろう。従わないヤツはぶっ殺す。」
 校舎3階の壁の一画がボンッと吹き飛ぶ。
 その衝撃は学校全体を震わせるには十分な威力があった。
 「いいか、これは冗談じゃないぜ。」
 最後に一言付け加えると、3階の放送室から正門のある校庭へと僕は飛び降りた。
 窓からこちらを見下ろす生徒たちが僕を見てどよめいている。
 そのような中を切り開いて昇降口から一番乗りでやってきたのは、中途半端に学ランを着込んだ男たちだった。
 「おう1年坊、おめぇおもしれーことやってんじゃねーか!!」
 「俺たちとちょっとあそぼーぜ!!」
 ニヤニヤと笑いながらのしのしとやってくる。
 程度の知れた不良学生相手にまともに取り合うのも億劫だと思い、僕はふっと一息吹いた。
 「うおおお!?」
 強靭な肺から噴出される風は突風の如き圧力を持っており、やってきた男たちを昇降口まで吹き飛ばした。
 普通の人間なぞ、もう吐息一つで吹き矢のように飛んでしまうレベルなのだ。
 彼らと入れ替わるように、今度は強靭な体躯を誇るゴリラのような男が出てきた。
 他の連中とは違い、僕の起こした突風の中もジリジリと突き進んで向かってくる。
 その堂々とした佇まいと物怖じしない勢いは、このゴリラが今来た連中の頭であることを感じされた。
 「なんだ先輩、早速金を献上しにくるとは殊勝だな。」
 「あん? ワシのシマで何好き勝手やっとんじゃガキが。少しヤキをいれちゃるわ。」
 古臭いヤンキー口調のゴリラが拳を振りかぶる。
 以前の僕ならば、その動きだけで目を瞑ってしまい相手の為すがままであっただろう。
 だが、すでにもっとも大切なものを失ってしまった今の僕には恐怖などなかった。
 拳が僕の顔面にガツンとヒットする。
 しかし、その拳は僕の脳みそを揺らすことさえなかった。
 「キ、キサマ、一体何者じゃあ……。」
 「……。」
 僕はその質問には答えずゴリラのポケットから財布を抜き取ると、その暑苦しい胸板をシャボン玉を割らないように扱うようにそっと押した。
 「オホッ!!」
 ゴリラが呼吸を遮られたような発声をすると、両手両足を前に投げ出した姿勢で高速後退した挙句、花壇に突っ込んで昏倒した。
 窓から身を乗り出して観戦をしていた生徒たちも鎮まる。
 「チッ、たった2000円ぽっちかよ。シケてやがんな。」
 僕はわざわざ学校全体に見えるように財布から金を抜くと、大声で悪態をついた。
 「お前らは一人頭1万は持って来いよ!! それが嫌ならオレを倒してみな雑魚共ハハハハハハハハ!!」
 その言葉に反応してか、2階の窓から女生徒が身を投げ出す。
 まるで投身自殺でも図ったかのような彼女の姿は、見ていた学校の人間の殆どに息を呑ませたことだろう。
 だが僕は逆だ、この時を待ち望んでいた。
 当然、彼女がこの程度の高さから飛んだ程度では怪我一つ負うはずもないことはよく知っている。
 「王崎くん……。」
 彼女が足から華麗に着地する。
 不安、怒り、恐怖、そのどれとも違う感情をその顔に携えている。
 僕にはその姿が、まるで舞い降りた天使のように見えた。
 (彼女だ、彼女が来た!!)
 アレ以来一度も僕に話しかけてくることのなかった彼女が再び僕の前に。
 僕は昂揚する気分を必死に抑えながらも悪態をつく。
 「姫野さん。今更、何をしに僕の前に? 言っておくけど、説得しようったって無駄だよ。」
 彼女が来た理由、そんなことは分かりきっていた。
 (姫野さんが望んでいるものは、平和だとか平穏だとか、そんな場当たり的なものじゃあない。)
 「違うよ王崎くん。私は……。」
 言わなくても分かる、というよりも、その無邪気な子供が目を輝かせているような表情が全てを物語っていた。
 『戦いに来た。』
 二人の言葉が重なると、僕たちはお互いに満面の笑みを浮かべた。
 きっと彼女はずっと探していたのだ、己の力の意味を。
 これまでも、彼女はその力の強さのせいで誰とも相容れることが出来なかったのだろう。
 自分を知る人間程、その力の差故に摩擦を恐れ遠ざかっていく。
 弱い僕を守ることでそれを誤魔化そうとしたが、それは僕が彼女に依存するようになっただけで、本当の意味で彼女を認められたことにはならない。
 悪魔に付け入られれば簡単に奪われてしまう程に脆く儚いもの。
 だから僕は真っ向から受け止めることにしたのだ、彼女の力を、僕の弱さではなく強さで。
 僕たちは利き足に力を込めて大地を蹴飛ばし襲い掛かった。
 僕と彼女の拳骨が衝突し、強烈な衝撃波を生み出し辺りを吹き飛ばす。
 この時僕は初めて、愛しい彼女の肌に触れた。
 
  完
posted by 冬待 犬都 at 02:42| 息抜き | 更新情報をチェックする
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