2015年09月23日

先月没になったやつ


 またもや久しぶりの投稿になります。
この季節になると、夏の暑さが引いてゆくのは良いのですが、どうにも季節の変わり目や秋の花粉などに弱い体質のようで、この前は大きな風邪をひいてしまいました。
特に年々、花粉に対する耐性が低下してきているのか鼻や喉が不調になりやすく、ティッシュペーパーが手放しづらい状況です。
早く冬が来るといいですね。

 現在は、未だに調べものをしつつアイディアを練ってプロットを書いている状況です。
特に専攻して学んだことがどちらかと言えば技術的な分野が多く、勉学に対し勤勉な性格でもなかった為、知識的な面を新たに勉強する時間が伸びて伸びて大変です。
ここにきてようやく作品そのものの方向性がようやくまとまり、各種設定が煮詰まってきたところです。
あとは必要な部分の面白いアイディアを思いつくか、にかかってますのでもう少し時間がかかるかと思います。


 とりあえず今回は、先月没にしたプロットを載せておきます。
没の理由は、大雑把に言えば作品の切り口を変えてみた結果、方向性が迷子になったことと、練り込みが浅かったことです。


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  遥か未来の話。
 世界は海を中心に広がっていた。
 海は、無数の並行世界の均衡を保つ楔であった。
 楔である海を司るはひとつの神王。
 海の神王は代々非干渉を貫き、只々、無数の世界の行く末を見つめていた。
 しかしある日、世界に転機が訪れる。
 ひとつの反逆者が海の神王を討ち果たしたのである。
 朽ちた神王の身体は数々の世界へと散らばり、海は涸れ果て、無数の世界の境界が断ち切られ一つとなった。
 ここに混沌の新たな世界「カオス」が誕生した。
 そして混沌歴5年7月22日――。
 
 
 
  「水……水……。」
 カツカツと木の枝を石畳へ突き、メカニカルなキャリーバッグを引いた長いダークブルーの髪の少年が、カンカンと太陽に照らされる路地を進む。
 その少年は、少年と言うには美しく、背格好から一見には女性にしか見えない。
 恐らく、ほぼ全ての紳士諸兄はレディとして扱ってしまうだろう。
 それこそがこの少年の狙いであり、その方が有利であるということを熟知している彼は、好んで女性の恰好をしていた。
 路地を抜け大きな広場にたどり着くと、その中央には小奇麗に作られた大きな噴水があった。
 「うおおおお水だあああああああああああ!!」
 少年は荷物を投げ出し、噴水にまっしぐらに駆け出す。
 地面に叩きつけられたキャリーバッグからは「イテ!!」と悲鳴があがるが、それは全く意に介さない。
 噴水の水面に顔面を突っ込むと、周りの目も憚らずにゴクゴクと喉を鳴らす。
 と思われたが、すぐさまに顔を上げて口の中の水をブーッと吐き出した。
 「エホッエホッ!! ざけんなこ、これ……海水じゃねーか!! ごえっ」
 少年が喉の奥から海水を絞り出していると、不意にハンカチが差し出された。
 「ヘイ彼女、使いなよ。」
 隣には口元をやや歪ませたニヤケ面を晒す、三枚目風の飄々とした金髪の青年が居た。
 一連の行動を見ていたのか、半笑いである。
 少年がハンカチを受け取り顔を拭いていると、ハンカチを渡した青年は勝手に話を始める。
 「お嬢さん、この町は来たばかりだろ? 良かったら僕がエスコートしようか?」
 白い歯を見せて気さくな笑顔で親指を立てる。
 「それには及びませんわ。でも、宜しかったらこの町についてのお話を聞かせてくださらない?」
 ここぞとばかりに自身の容姿を利用し、全力で猫を被る処世術を披露する。
 丁寧な物腰に輝く笑顔、若い男に概ねこれが効く。
 「お任せあれ。僕はテイラー、こう見えても新聞記者なんだぜ。キミの名前は?」
 「リューコよ。」
 少年は詰まることなくスラスラと常にいくつか用意している偽名を名乗った。
 よって、テイラーも特に疑う様子はない。
 「この町は、この噴水を元に人々が集まってできた町さ。海が干上がっちまって以来どこも水不足だが、ここには湧き続ける海水がある。それを聞きつけていろんなヤツがやってきた。もちろん中にはならず者も相当居て、数年前はそこかしこでナワバリ巡ってドンパチやってたもんさ。」
 「今はそんなギスギスした感じはしませんけども?」
 辺りを見回しても、噴水広場の近くでは老若男女が行き交い、怪しげな店のビラ配りやホットドッグの屋台まで並んでいる。
 その景色は、世界がカオスへと変貌する以前と比べても遜色がない。
 「神王教団って、知ってるかい?」
 「神王? いいえ?」
 「世界がこうなっちまう前には居たって言われている神様のことだとさ。連中が言うには、その神様が世界の秩序を保ってたんだが、死んじまって世界が混ざっちまったらしい。だから、その神様が蘇るように日夜祈りを捧げてる宗教だな。」
 「ふーん。」
 (なんだ、親父の信者じゃん。)
 リューコが投げだしたキャリーバッグの方を一瞥する。
 「まぁ話を戻すけど、その湧水は神王の加護の賜物だとして信者を増やし、数による武力でもってここ等を平定。誰もが水を使えるように、秩序を作ったってわけさ。ま、俺ら一般人からすれば、教団様サマだな。」
 「それは素晴らしいですわね。」
 思わずリューコが笑みをこぼしかけると、テイラーは自分の話が好感触であったと感じたようで、得意げに次の話題を続ける。
 「他にも変わった事があるぜ。例えばほら、そこの塔の屋根。」
 噴水広場より100メートル程先に、この町でもいっとう高い建物が突き上がっており、その上には漆黒の巨大な翼を持つ怪物が鎮座している。
 遠目に見たところでは、その怪物はただ町を見下ろし微動だにする気配は一切見られなかった。
 「何か居ますわね。」
 「去年くらいからかな、あそこの塔に住み着いてるんだ。不気味がってるヤツも居るけど、もう長い事何もないし害も無さそうだから放っておかれてる。ただ、必ず朝夕6時になると大きな声で鳴くんだ。理由はわからんがまぁ、今ではみんな時報感覚で聴いてるよ。」
 「……。」
 リューコが怪物を見ていると、その怪物はチラと此方を見てお辞儀をしたように見えた。
 (まさかな。)
 「そして最後、いいかい、これはとてもシリアスな話だ。」
 テイラーが今までに見せない、険しい顔をする。
 「この町では、満月の晩に必ず殺人事件が起こる。それも、狙われるのは決まって若い男女だ。事件が起こると翌日の朝に死体があがるんだが、その死体は必ず内蔵がくり抜かれてるのさ。手口が同じことから、同一犯による連続殺人だと言われている。そして、今夜は満月だ……。キミも十分に気を付け、夜は外出しない方がいい。」
 「え、ええ……。」
 やや緊張した空気の後、テイラーが両手を広げおどけた仕草をする。
 「いや悪い、来たばかりで怖がらせちまったな。それ以外はホント、良い街なんだぜ。水も塩も手に入るから、料理は美味い。もし泊まるところが決まっていないのなら、ウチに来るかい? 実家は民宿やってんだ。安くしとくぜ。」
 「あら、それは助かるわ!!」
 「それでは、お荷物をお持ちしましょうお客様、ってな。」
 転がっている荷物を拾い上げると、二人は談笑しつつ広場を離れた。
 
 
 
  混沌歴5年7月23日――早朝。
 怪物が発する大声で、リューコはうつろに目を覚ました。
 昨日のテイラーの話を信用するならば、現在は午前6時らしい。
 まだ薄い日の光が差す窓を忌々しそうに見上げる。
 「あと、ごふん……。」
 安宿のベッドの掛布団を頭まで深く被ってしまう。
 再び目を閉じかけたところで、ぐるりと強い力に巻き取られてリューコは掛布団ごとひっくり返された。
 「起きるのだ我が息子よ。」
 「がっ。」
 リューコは頭から転落し、木造の床に顔を打つ。
 「ってーな!! 顔にキズついたらどうすんだよ、いろいろやりづらくなるだろうが!!」
 「もっと男らしく生きればよい、父は悲しいぞ。」
 「このクソ親父、人の苦労も知らんで!!」
 リューコは親父と呼んだキャリーバッグの口をこじ開けると、腕を突っ込んで中身を物色する。
 「大体親父がこんな体たらくじゃなきゃ、オレがこんな苦労することもないっつーのに。」
 文句を言って聞かせながら乱暴にキャリーバッグを漁っていると、コツコツと扉が叩かれる。
 「はーい?」
 反射的に取り繕った返事に呼応し、木製の扉がキィと静かに開いた。
 「どうかしたかい? 大きな音がしたけど?」
 やってきたのは怪訝そうな表情をした洗濯籠を抱えた民宿の女将、テイラーの母親だ。
 この母親も、テイラー同様に人当りの良い印象を受ける。
 「いえ、ちょっとベッドから落ちてしまって。お恥ずかしいですわ。」
 にっこりと営業スマイルを返すと、女将も軽く笑う。
 「今日は町を観光でもするのかい? うちの馬鹿息子に案内させようか。と言っても、どこほっつき歩いてるんだか、昨日の晩からもどりゃしない。ま、戻ったら連絡するよ。」
 「いえ、今日は――」
 リューコの言葉をドカッと大きな物音がかき消す。
 どうやら何者かが民宿の扉を力任せにこじ開けたようだ。
 「おおおお女将!!」
 続いて悲壮な男の叫びが飛んでくる。
 「なんだいそんなに慌てて。」
 部屋の扉から広間を伺えば、息を切らせた汗まみれの中年男が膝に手をついて呼吸を整えていた。
 「ふはっ、ふはっ、テイラーが!! 大変なんだよ、とにかく来てくれ!!」
 
 
 
  まだ日も登りきらない早朝だというのに、その路地の一画には人だかりが出来ていた。
 町の者は皆、怪物の時報によって叩き起こされて朝に強くなっているのかもしれない。
 「テイラー!! テイラー!!」
 女将が人垣を突き破り、割れた人波の中を寝間着のままのリューコがキャリーバッグを抱えながらつける。
 騒動の中心部ではテイラーが力なく横たわっていた。
 その表情は恐怖にひきつっており、目は大きく見開かれ、そして腹部から胸にかけて大きく裂かれていた。
 だが、その中には本来人間にあるべきであるはずのモノ、内蔵がごっそり抜き取られている。
 「うわあああああ!!」
 悲痛な姿と成り果てたテイラーに縋りつき、女将は尚も泣き叫びつつけている。
 「ん……?」
 その様子を横に、リューコは死体の至る所に白い粒が付着していることに気が付き、それを指に取ってみた。
 ざらざらとした触感を確かめると、その指をチロリと唇に触れさせてみた。
 「しょっぱ……。」
 更に、テイラーの死体は不自然に片手に拳を作っていることに気が付く。
 「なんだ……?」
 強引に硬直した指を少し開かせると、一枚の小さな紙片が姿を現す。
 「被害者に触るんじゃない!! 下がって!!」
 と、そのタイミングで6人の憲兵たちがやってきて、人だかりを散らしてゆく。
 リューコはすぐさまメモを摘み取りポケットへ隠すと、憲兵たちに押しのけられた。
 「キミも、離れて!!」
 「わかりましたわ。」
 女将はまだ憲兵たちに食い下がっていたが、リューコは未だに止まぬ喧噪を尻目にその場を離脱した。
 「親切な青年だったのに、残念なことだ。」
 人目を少し離れたところでキャリーバッグが不意に言葉を発した。
 「そりゃオレが女のカッコしてたからだっつーの。」
 話題に興味なく突き返す。
 「ところでコータよ、何を見つけたのだ?」
 リューコ、もといコータはポケットへ押し込んだ紙切れを広げる。
 「何かのマークみたいな、変な模様だな。当然心当たりはねーな。」
 広げられた紙切れには黒インクでラインを引かれたシンボルマークに、一点だけ濃い赤が零されている。
 「テイラーの残したダイイングメッセージというヤツではないのか?」
 「さぁな。だが、今回の犯行の手口ってのは、昨日アイツが言ってた連続殺人の状況にピッタリ当てはまる。おそらくそれ絡みだろ。」
 キャリーバッグを引いて足早に民宿へ向けて歩き出す。
 何せ未だに寝間着のままのうえ、ロクに身支度も整えていない。
 「……コータよ、一つ忠告しておく。決して殺人事件に首を突っ込むんじゃないぞ。父は息子に危険が降りかかるのは望まない。」
 「そうはいかねーんだよ、めんどくせーけど。」
 「どうしたのだ?」
 「テイラーの死体には、至る所に塩が付着していた。おそらく海水が乾燥したもんだ。もう一つ、死体の発見現場では血痕は見当たらなかった。この二つから推測するに、殺害現場は別の場所であり、それは海水の近くであることになる。」
 「噴水広場ということか?」
 「それなら噴水広場でおびただしい血痕が見つかってそっちでも大騒ぎになるはずだが、その様子はねーな。別の場所だ。」
 「あの塔の屋根に留まっている者は犯行に適していそうだな。空も飛べるだろうし、死体を運ぶのも容易だろう。」
 塔の怪物をキャリーバッグが示すと、キラリとその爪も輝いた気がした。
 「そりゃねーな。あの傷口は鋭利な刃物で綺麗に一閃されてできたもんだ。あの爪じゃあ引き裂くのは簡単だろうがそんな芸当は無理だ。こいつぁ人間共の仕業だ。」
 そう問答を繰り返していると、広場の前に建てられた案内図が目に付いた。
 広場を中心としたこの町全体の見取り図で、小脇には各施設の説明が掲載され、そして右下スミには”テイラー・ビギンズ”と小さくサインがされていた。
 コータはすぐさまに先ほどのテイラーが握っていた紙切れのシンボルマークを広げて見返してみる。
 「ほほう……。」
 「何か見つけたのか?」
 「クク、テイラーは貴重な情報を残していたようだぜ。おそらく、こいつこそ今回の殺害現場、海水の水源、そしてオレ達の探しモンがある場所を示しているのよ。」
 紙切れを地図の横に並べ、キャリーバッグへと見せつけた。
 
 
 
  混沌歴5年7月24日――深夜。
 地下に位置するその空間では月明かりが入り込む余地も無く、石煉瓦とコンクリートで塗り固めた壁にいくつも掛けられたいくつもの松明だけが辺りを照らしている。
 空調もロクにない暗堂では厳かな虚勢を張った声が反響していた。
 「我等は海の神王の使徒である。破壊され荒廃した世界を再び豊かな大地へと戻し、不浄なる邪教徒、怪物共を誅殺し、我らが神王の復活を実現する為、この身を捧げる者である。」
 一際大きな部屋では、白い装束ですっぽりと全身を包み込み、顔も分からないような連中が微動だにせずに整列している。
 その白装束の者達の視線は一点、他の者より豪華に装飾された装束を纏う者へと注がれていた。
 この構図をみれば、誰しもがその者を統率者だと思うであろう。
 「おーおー、やってるやってる。」
 コータは地上からの隠し扉を持ち上げ、その様子を眺めていた。
 「思った通り、水源は地下にあるみてーだな。アホ共がおいのりに夢中になってる間に、とっとと抜けるぜ。」
 「うむ。」
 梯子を下り、キャリーバッグを背負ったコータが抜き足差し足で部屋の前を通り過ぎる。
 「昨夜、我らが神はまた一つの命を受けられ、また一つ再誕へと歩まれた。この前進を祝し、我等祈りを捧げるものとする。ディーラ・ヒイア・カアン。」
 「ディーラ・ヒイア・カアン。」
 装束の教徒達が誰が作ったのかも分からない謎の呪文を復唱すると、一斉に腕に短剣で小さく切れ目を入れその血の滴る腕を掲げた。
 「ぷはっ、クレイジーだな。親父のファンの奴らなんだろ?」
 「……私はあのような事は望んでいないのだがな。」
 コータがからかうとキャリーバッグはうんざりした様子で言葉を返した。
 「どうせ、親父の名前を利用して好き勝手してるだけだろありゃ……この先か?」
 通路の先に重い石扉を見つけると、体重をかけて思い切り押し開けた。
 ガタンとやや大きな音が響いて出た先は、血と生臭さと塩の匂いの混じりあった凄まじい部屋であった。
 「なんだこの匂い……。」
 背負ったキャリーバッグを落とし思わず鼻と口元を抑える程に、部屋中には至る所に血痕が飛散しており、その部屋は強烈な不快感を醸していた。
 中央には大きな石の円壇が置かれており、四方には鎖に繋がれた拘束具が備え付けられている。
 見た限りはそのどれもが血塗られ、まともな神経の人間が侵入しようものなら忽ち胃酸が逆流しかけるだろう。
 「そうか奴ら、満月の夜になるとここで生きたまま人の腹を掻っ捌いていたんだ。神への供物を取り出す為にな。他人事だと思ってえげつねえ事しやがるぜ。」
 「一体何の為にわざわざそんなことをするのだ?」
 「連中に言わせれば親父……海の神王の復活の為なんだろうが、真実はきっとこの先にあるんだろうな。」
 部屋の奥は布きれを何重にもされた厚手のカーテンで仕切られていた。
 カーテンを開いてみれば、巨大な祭壇と脇に流れる水路が見受けられ、両腕から滝のように水を流す一体の怪物がぐったりと座していた。
 そしてコータには、この怪物に見覚えがあった。
 「こいつは、あの塔の上に居た……?」
 「目測だが、アレよりひとふた回り大きいように見える。親かもしれない。」
 怪物は眠っているように見えるが、腹が裂かれ中には溢れんばかりの臓器が押し込まれており、生きているかどうかも定かではない。
 「人間の内臓を命と見立てて、こいつの腹の中にぶち込んでやがったみたいだな。」
 「ム、コータ、あの腕を見るのだ。」
 キャリーバッグに指摘されてみた腕は怪物の皮膚の色とも異なり、塔で見た怪物の腕とも違うモノであった。
 後から無理やりに縫合されたものであるようだ。
 「見つけた!! 親父の腕!! やっぱ海水の水源はコイツだったか!!」
 「コータ、私を連れて行くのだ。触れることが出来れば引きはがすことができる。」
 「それ以上我らが神に近づくな!!」
 祭壇に足を踏み入れようとした刹那、怒声が部屋に流れる。
 豪華な装束を纏うおそらく教団員のリーダーであろう男が中心となって他、それなりに体格の良い白い装束の連中5人ほどが室内に駆け込んでくる。
 教団の信徒達はリーダーの男の気迫に呼応するかのように、それぞれがいきりたっている。
 「そこの女、貴様は何者だ。」
 「神様。」
 追い詰められているにも関わらずコータがあっけらかんと答えると、それは信徒の癇に障ったようである。
 「そのような虚言で惑わせるとでも思うか。いいだろう、神の名を騙った不届き者として浄化した後に我らが神王へと捧げてやろう。」
 信徒達が一斉に短剣を構える。
 「ケッ、無知を良いことに言いたい放題だな。これがお前らの言う神王だってのかよ?」
 カーテンの奥にある怪物を背中越しに指す。
 「その身体は我らが神王の為の憑代だ。海を生み出す神王の腕、そして幾万の魂と祈りを捧げる。神王は再誕なされ、この全てが狂った世界を浄化してくださるのだ。この世界の為を想うならば、その命を捧げるがいい!!」
 「ずいぶんと派手な妄想に仕上がってんな。ご本人の感想はどうだ?」
 「そうだな、その、そういうのはいろいろ困る。」
 床に唾を吐き捨て、キャリーバッグに腕を突っ込む。
 「そんじゃ、ひとつ馬鹿につける薬ってのを見せてやるぜ!! これが本物の力だ!!」
 取り出された小さな一冊の本が開かれると、じゅくじゅくと空気が揺れ動く。
 床から這い出るようにコータの目の前に5体のソルジャーが現れた。
 「貴様、何をした?」
 「これからお前と単純なゲームをしてやる。いいか、これはオレからの情け、気まぐれでわざわざ対等に戦ってやろうってんだから、勘違いするんじゃねーぞ。その気になりゃあ、皆殺しにだって出来るんだからな。」
 5体の兵士達が剣を構えると、少なくとも短剣を持った信徒達は物怖じしたようである。
 「奇怪な術を使う邪教の徒め……何をさせるつもりだ。」
 信徒のリーダーは現状では有利とは言い切れないと判断したか、しぶしぶコータの話を聞くことにしたようだ。
 「今、貴様の信者たちに1から5までのナンバーを振り分けた。」
 信徒の装束の額部分にぼうっとローマ数字が浮き上がると、連中はどよめき始めた。
 「それは貴様達の命の価値だ。そして同様にこちらの兵士達にも同様のナンバーがある。オレはこれから、兵士を一体づつ貴様達の前に差し出そう。その後貴様はこちら同様に一人兵士の前に信者を差し出せ。もしオレの兵士のナンバーよりもそちらのナンバーが大きければ、貴様はその兵士を打ち倒すことができる。一度出した兵士はもう使えない。」
 「も、もしナンバーが低かった場合は……?」
 信徒の一人がうわずった声をあげる。
 「兵士の剣がそいつの頭を叩き割って死ぬ。それだけだ。」
 「ひっ。」
 小さく悲鳴が響く。
 信徒のリーダーはそんな中気丈にも、更なる確認をする。
 「ナンバーが同じならば? 決着方法は?」
 このリーダー、多数の人間を引き連れる器だけありそれなりに知恵があるようだとコータは見立てた。
 しかし発想に柔軟性が乏しい、だから出されたルールを受け入れやすいと分析した結果、ゲームのルールは決まった。
 「ナンバーが同じであった場合は相打ち、両方死ね。そしてこのゲームは全ての兵を出した後、生き残った者の多い方を勝ちとする。そして敗者には……。」
 コータと信者のリーダーの首に、簡易的なギロチンがかけられる。
 「このギロチンが落ちる。」
 「気が狂ってるのか、この魔女め……。」
 「ハハハ、人の臓物切り貼りして喜んでるお前らが正気を問うのか? まぁいい、ゲームはもう始まってる。最初の生贄は誰かな?」
 兵士が一体前に出ると、信徒全員がじりりと後ずさりする。
 「3番、まずは3番行け。安心しろ、我らには神王の御加護がある。今までこの身を神王に捧げ続けてきたのだ、見守っていてくださる。」
 「り、了解、こんなハッタリに引っかかるものか。」
 リーダーが指示を出し、3番の信徒が短剣を構えてやってくる。
 信徒達は疑心暗鬼の状態ではあるが、この者は多少は豪気な者であるようだ。
 「そうか、ならば死ね。」
 兵士の剣が打ち下ろされ3番の信徒の頭に食い込むと、その中身が少々飛び出て部屋の床を汚す。
 その剣の切れ味の鈍さが、更なる痛々しさと恐怖心を引き出す。
 「うわあああ!! ほ、本当に殺された!!」
 「残念だったな、こっちの兵士のナンバーは4だ。次行くぞ次。」
 淡々と告げるコータの言葉を証明するように兵士の兜を開けると、中から4という数字が浮かび上がる。
 「さあ、次の生贄を出しなよ。」
 「くっ。」
 「きょ、教主、俺を出してくれ、俺なら絶対に負けない。」
 5番の信徒が前に出ようとするが、リーダーはそれを遮った。
 「待て、5番のお前は切り札だ、ここで消費するわけにはいかん……では2番……。」
 「い、いやだ、2番の俺なんかが出たら絶対死ぬ!! 相手が1じゃないと……死ぬ!! やめてくれ、やめてくれ。」
 信徒達が一人目の死を目の当たりに、ようやく状況が呑み込めてパニックに陥っている。
 円状の処刑台に腰を掛けると、待ってましたと言わんばかりにコータはにやにやと嫌らしい笑みを浮かべた。
 「はやくしろよ。なんなら時間制限も設けてやろうか?」
 「分かった、ならば4番だ。大丈夫だ、相手は4はすでに使っているから、お前が負けるのは5が出た時だけだ。だが、ここで5を使えば、その後の1勝を拾うのが非常に難しくなるはずだ。お前は勝てる、行け。」
 「あ、ああ。」
 リーダーに諭されおずおずと4番の信徒が出る。
 「うおおおお!!」
 4番の信徒が突進すると、その短剣は兵士の身体を貫いた。
 「や、やった。勝ったぞ!!」
 「ククク、おめでとう、お前の勝ちだ。この兵士のナンバーは1。」
 崩れた兵士から1という数字が浮かび、消えた。
 「1だと……、最初の俺の判断が正しかったのか。」
 「最初も後もねーだろ。決断はいつだって1度限りだ。次行くぞ。」
 3体目の兵士が前に出る。
 「こちらの残りは2、3、5だ。さあて、こいつはどれかな?」
 わざと現状を確認させるように、数字を教えてやる。
 「こっちは1、2、5……なんてことだ……。」
 勘の良い信徒の一人が震えながら呟く。
 「へえ、そっちにもちょっとは気の回るヤツが居たみたいだな。面白いこと教えてやるよ。この勝負、まだ決着はついては居ないが、そっちの1番と2番、お前達はもう死が確定している……ハハ。」
 1番と2番の信徒が青ざめる。
 「そうだろ? だってお前らはオレが何を出しても勝てない数字、運よく2番だけは負けない可能性はあるが、相打ちで両方死ぬ。つまり、お前らはもう、どう足掻いても死ぬんだよおヒャッハハハハハハ!!」
 1番と2番の信徒が短剣を取り落とし、ガクリと膝をつく。
 「さあて、そろそろ次を出しなよ。待ちくたびれてるぜ。」
 中指で手招きして挑発する。
 「1番!! 1番行け!!」
 「!!」
 リーダーの宣言に、1番の信徒がビクリと反応する。
 「ま、待ってくれ教主様、ま、まだ俺は死にたくない……。」
 「お前はもう、このゲームに於いて1という数字にされた時点でもう死んだのだ!! 潔く死んで来い!!」
 「そ、そんな……。」
 「おーおー、酷い教主様だなあ。今まで他人を生きたまま切り刻んできたのと同じように、自分以外は誰が死んでも関係ないって感じだなあ。」
 コータが絶望に打ちひしがれる1番の信徒を更に煽り立てる。
 「早く行け!! 1ば……!?」
 1番の信徒を怒鳴りつけるリーダーの声が固まる。
 その胸に、2番の信徒の短剣が突きたてられていた。
 「し、死んでたまるものか……こんなことで……!!」
 短剣が引き抜かれると、信徒のリーダーは血を吐いて膝をついた。
 「き、貴様……背教か……し、しにたく……。」
 「クク、こりゃゲームセットだな。」
 コータが手にした本をライターで焼き捨てると、空間が元に戻る。
 信徒達は皆、神経の衰弱からか意識を失いその場に倒れ込んだ。
 召喚された兵士たちは霧消し、頭を割られたはずの信者も、刺されたはずのリーダーも無事で全てが何事もなかったかのように。
 「ばーか、貴様等ごときに本気でやるわけねーだろ。」
 コータが去った後には、灰と化していくトランプゲーム100選と書かれた本が残されていた。
 
 
 
 キャリーバッグが大きく口を開けると、バクリと怪物の腕を丸のみにした。
 「んじゃ、帰るか。」
 踵を返してそそくさと立ち去ろうとするコータを、キャリーバッグが引き止める。
 「待つのだコータ。最後に、この者に腕を預かってもらっていた礼をしたい。」
 「礼って、コイツもうほぼ死んでる。何が欲しいってんだよ。」
 お人好しな父親の発言に、めんどくさそうに頭を掻き毟る。
 「ただ少し、祈るだけでよいのだ。この者が安らかに眠れるように。」
 「チッ、律儀な親父だ。少しだけだぞ。」
 コータはキャリーバッグを抱え、怪物の頭にそっと触れて目を閉じる。
 その祈りは神の奇跡などではなく、微弱ながらも電気の波である。
 それがほんの少し怪物の脳へと届けば、怪物は一度だけ絞り出すような大きな雄叫びを発した。
 「!?」
 その叫びは頭上を叩き地上へと抜け、町の夜を震わせる。
 間髪入れずに大きな衝撃が天井を貫くと、部屋を閉ざす上空の闇が崩れた。
 月明かりと共に、塔の上に居た子共の怪物が飛び込んできたのだ。
 そして互いに頭をすり合わせると、最後の生命を使いきったのか再び親怪物は動かなくなった。
 子供の怪物が少しものかなしげに鳴き、こちらに一礼をして親怪物を掴み飛び去る。
 「ったく、まだ耳がキンキンしやがるぜ。」
 「あの怪物もまた、親を想って探し続けていたのだな。心優しき我が息子のように。」
 「しらねーよ。」
 コータとキャリーバッグは、月夜を飛ぶ怪物たちをその場で見送った。
posted by 冬待 犬都 at 16:36| 日記 | 更新情報をチェックする

2015年08月27日

思いつきでラブコメを読まないオレがラブコメを書いてみた。


 描いてたネームとか新しく書いたプロットがボツったので、息抜きに他の事をしようと思いました。
今回は、ラブコメを読まないというか、ラブコメ死ねよと常々思っている僕がラブコメに挑戦してみようと思いました。
特に深いことは考えず、ラブコメって多分こういうものじゃないかなあという勢いだけで書きました。
書き方もそれなりに青少年のポエミィな感じを折り込もうと努力しました。
書いた後で少し思ったのですが、ああ、ラブコメもそんなに悪いものではないのかなと。
ちなみに、キャラクターの身体的特徴などはめんdあえて描写していないので、想像にお任せします。
あと、今朝ついに女装少年に騙される夢を見ました。

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  「好きです、私と恋人になってください!!」
 放課後の校舎裏、謎の手紙に呼び出された僕は理解不能の告白を受けた。
 身体が貧弱で、他人に誇れるような目立った長所も持たない僕にとって、これは生まれて初めての経験であった。
 心舞い上がるよりも前に、警戒信号を強烈に脳が発してしまう。
 何せ、今回の呼び出しもまたいつものイジメか何かだろうと覚悟を決めてきていたのだ。
 (また、あいつらの仕業か!?)
 僕を見つめる少女よりも、周囲の様子が気になって仕方がない。
 「あの、やっぱり、ダメでしょうか……。」
 彼女に応える余裕すらなかった僕に、彼女が更に一押ししてくる。
 「い、ええ、その。」
 「ごめんなさい、今日のことは忘れてください!!」
 上手く言葉が絞れない僕を、迷っているように見えたのか彼女は身を引こうとする。
 その瞳からうっすらと涙が伝っていた。
 「ち、ちち違うんだ、そ、その、突然だったから驚いて、ぼ、僕なんかで良いのなら。」
 「本当ですか!?」
 これが僕と彼女は恋人同士になった、何のことは無いあらましである。
 ごく普通の、ごく平凡な、そして純粋な始まりだった。
 
 
 
  初めに、彼女のことを話そう。
 彼女はそう、僕らの通う公立の高等学校のクラスメートだ。
 僕と彼女は比較してみると様々なことに共通点を持っている、が、その理由は概ね対照的なものである。
 例えば二人共に部活動にも参加していないが、どこのグループの輪にも入り込めない僕と、どの部も欲しがる程の運動能力を持ちつつも部活動に興味がない彼女。
 例えば二人共にクラスの中では浮き勝ちだが、周囲から冷ややかな軽蔑な目で見られる僕と、畏怖と尊敬の念により近づきがたい雰囲気を持つ彼女。
 例えば二人共に学校を度々休むことがあるが、煩わしい学校行事から逃げる僕と、ケンカに明け暮れる彼女。
 もっとも、彼女がケンカで怪我をしたことは一度もないらしいが。
 彼女は言うなれば、最強の身体能力をもつ一匹狼の不良だ。
 この町の喧嘩自慢程度の奴らは、彼女が前に現れればすぐに道を開ける程の。
 そんな彼女が何故、僕に対して恋心を抱くのかは分からないし、それを尋ねてしまうと何かが終わってしまうようで怖い。
 結局僕はその理由を彼女の口から聞くことは無かった。
 だが、恋人になった瞬間から猛プッシュでベッタリしてくる彼女の姿は、普段の立ち振る舞いからは想像できない程に意外で、その甲斐甲斐しさは他者と関わりを持たない僕にとっては何よりも可愛らしく映った。
 お昼には彼女の作った弁当を食べるようになったし、帰り道は学校であった出来事等を語らい、夜は電話で宿題の分からないところを教え合った。
 気が付けばいつも彼女と共に過ごし、彼女のことを考えるようになっていた。
 僕のこれまでの退屈で鬱蒼とした人生は、一挙に華やかなものへと変身したのである。
 何かにつけて障害にぶつかる度に卑屈になった僕の思想も、彼女のお陰で徐々に前向きになり始めていた。
 
 
 
  だが、それを快く思わない人間が多いのも僕のクラスである。
 僕が小テストで満点を取って先生に褒められた日の事、僕は3人のクラスメートに体育倉庫に連れ込まれることになる。
 「よお、もやし。最近なんか景気よさそーじゃん。」
 3人のクラスメートの一人が、僕の頭を跳び箱に叩きつける。
 ちなみに『もやし』とは彼らのつけた、僕のあだ名である。
 「こいつ毎日毎日、姫野とイチャコラやって調子のってんだよ。少し自分の立場ってのを思い出させてやろうぜ。」
 「気に入らねーんだよヘラヘラしやがってよ。」
 倉庫の隅に片づけられた金属バットを引っこ抜くと、それを僕の尻に向けてスウィングする。
 パンッと鈍い音と共に僕はその痛みに飛び上がった。
 「ハハハ、漫画みたいに飛び上がるんだな!!」
 3人が僕を笑い飛ばすと、悲しさや悔しさ、怒りで涙が溢れてきた。
 怒り。
 この怒りと言う、今まではただ嫌で堪らなくて耐えるだけだっただけの僕に初めて生まれた、理不尽に立ち向かう為の感情が芽生えた。
 「なんだぁその目はよ。やるってのかあぁん?」
 「もやしが!! ぶっ殺すぞコラァ!!」
 今度はグーの拳が顔面向けて飛んでくる。
 僕は歯を食いしばって、目を瞑って、一つの反抗の意志を示すが如く頭を思い切り前に突き出した。
 案の定僕はぶっとばされて、2メートルも離れた運動マットの束に飛び込む羽目になった、が。
 「イッテェ!!」
 僕を殴りつけてくれたヤツの拳は、僕の頭突きをもらって痛がっていた。
 「この……カスがぁ!! 生意気なんだよ!!」
 「アバラ叩き折ってやんよクソがぁ!!」
 「脱がして吊るすぞコラァ!!」
 当然の事ではあるが、僕のただ一つの反撃はより彼らを怒らせただけであり、その暴力は苛烈なものになっていった。
 「王崎くん!!」
 彼女の声だ。
 彼女が僕を呼ぶ声がする。
 叫びと共に体育倉庫の扉に力が込められるが、それは扉の鍵をガチガチと鳴らすだけだった。
 「チッ、姫野のヤツが嗅ぎつけやがったか。鍵がかけてあるから開けられねーよバーカ。」
 キリキリと扉の軋む音がする。
 「なんだこの音……おい姫野!! テメェ何やってやがんだ!!」
 バギンと鋭い金属音が響き、扉と鍵を繋ぐ金具が引きちぎれる。
 その後は、無抵抗となった体育倉庫の扉は為すがままにカラカラと押し広げられた。
 「コイツ、筋力で無理やりこじ開けたのかよ!!」
 「ひ、ひめの……さ――」
 扉の先の彼女と目が合った。
 その形相は鬼、般若、怪獣、もはやなんでもいい、とにかくそんな言葉が似合いのとてつもないものであった。
 「オ、マ、エ、ラ……。」
 誰もが唇から雑音を流すべきではないと悟る。
 今はもう、そのような状況ではないのだ。
 固唾の一つでも飲みたいところではあったが、彼女はそのような暇すら与えてはくれなかった。
 空を切る回し蹴り、学生服がスカートなのでやってしまうと見えてしまう、あの蹴りである。
 そのある意味ロマンにもあふれた技は、特に誰に触れることも無かった。
 誰にも触れなかったからこそ、僕らは今後も平凡な学校生活を送ることができたし、血なまぐさいトラウマなんかとも無縁でいられた。
 なにせ、その蹴りの風圧だけで3人哀れなクラスメート達は倉庫の深奥の壁に3つの人型の窪みを作ったのである。
 「ごめんね王崎くん!! 遅くなってごめんね!!」
 彼女は泣きそうになりながらハンカチで僕の顔を拭う。
 「……ぐすっ。」
 僕は何も言えず、ただただ肩を震わせた。
 助かった、という安堵からではない。
 怖かった、という恐怖からでもない。
 これは悔しかった、という無念である。
 僕が守りたいと思う彼女に救われた、男としての意地である。
 この日、僕は肩を貸そうとする彼女の善意を断り、自らの足だけで家路に着いた。
 
 
 
  もし仮に、悪魔と契約して何かを犠牲にしてでも手に入れたいものがあるとして、何を望むだろうか。
 僕の場合は、力を望んだ。
 誰にも負けない強い力を。
 近年、インターネットによる人々の交流が活発になり爆発的な情報が流通するようになった。
 料理の仕方や引っ越しの心得等の生活の役に立つものから、妄想をこじらせた子供じみたゴシップまで、それは多岐に渡る。
 もはやその情報量は人間の記憶量を遥かに溢れており、何が真実なのかは実際に目の当たりするまでは誰にも分からない状態にあると言える。
 中には、以前はアンダーグラウンドと呼ばれた深い位置にしか存在し得なかった情報すらも掘り起こされ明るみに出ている。
 ただし、その殆どは眉唾もので、ただのラクガキのようなものだ。
 しかしながら、今日僕は幸運なのか不運なのか、その中で当たりを引いてしまった。
 "神奈川県の博物館に本物の悪魔の書物があるらしい"
 僕は特に博物館等に足を運ぶほど熱心な勉強家ではないが、もし願いが本当に叶うならば、そうでなくとも今の気分を少しでも紛らわせることが出来るのならばと考え、休日をまるまる使ってその博物館を探し当てた。
 その本は魔女の書いた書物として黄色いチェーンの向こうに安置されていた。
 博物館そのものの独特なものなのか、その本が漂わせているものなのかは分からないが異臭が鼻をつんとさせる。
 一見ではただの薄茶色の装丁のされた古ぼけた本ではあるのだが。
 事を起こす前に、咎められても厄介なので周囲を確認する。
 休日にも拘わらずこの博物館はそれほど人入りが無いようで、同室にも家族連れが1組、学生が1人といったところだ。
 特に人の目が届かないことを理解すると、僕は指先をちょいと安全ピンで突き刺す。
 人差し指の先から赤い血がぷっくりと小さな山を作るのとほぼ同時に僕の携帯が音を鳴らした。
 彼女からのEメールだ。
 自慢ではないが、本当に自慢にもならないが僕の携帯電話にメールを送ってくる人間なんて、彼女しかいない。
 慌ててメールを開く。
 「元気? この前は大丈夫だった? また何かあったら私がアイツらぶっ飛ばしてあげるからね。それと、今スーパーまで買い物に来てるんだけど、何か好きな物ない? 明日のお弁当のおかずに迷ってるんだ。」
 彼女にはいつも心配ばかりかけている。
 僕は少し顔を綻ばせ、携帯電話を仕舞う。
 メールは後で返すとして、今は血が流れ出っ放しだ、早く用事を済ませておこう。
 僕は人差し指に溜まっている血を爪で弾いて本にぶつけた。
 そして手を組んで、先日の怒りを煮えたぎらせ、想いの限り祈る。
 (強くなりたい、オレにもっと力を。力を…力を!!)
 「我と取引をするか。」
 その願いに応える者が居た。
 「目を開くな、そのまま閉じていろ。もう一度尋ねる、我と取引をするか。」
 声に従い光をシャットアウトしている為、誰が居るのか確認は出来ない。
 しかし、その声は確かに聞こえるのだ。
 (力が欲しい、強力な力が欲しい。)
 「良いだろう、貴様に力をくれてやろう。」
 それっきり、声は聞こえなくなった。
 すぐさま自身の身体を確認してみるも、特に変化はなかった。
 自分の弱さが生み出した幻聴であったのだろうか。
 こんなもんだよなと肩を落とし、溜息をひとつついて僕は帰って宿題でも片づけることにした。
 
 
 
  通学途中の朝でのことである。
 いつもなら通学路の途中で彼女が僕を待っているのだが、今日は違った顔ぶれが雁首を揃えていた。
 「おう、もやし。ちょっとツラかせや。」
 僕をリンチしたクラスメートの3人である。
 そのうちの一人が、包帯を巻いた自分の拳を見せつけてはスリスリと撫でまわしている。
 先日の頭突きの一件を未だに根に持っているようだ。
 僕は咄嗟に目を逸らす。
 「何シカト決め込んでんじゃテメェ!!」
 たったそれだけのことにも因縁をつけてくる一人が、僕の胸倉を掴む。
 服は引っ張られるものの、その行為は犬が甘噛みするかの如く優しく弱弱しい。
 「あ?」
 「?」
 僕も相手もキョトンとした。
 そして軽く半歩足を下げてみれば、その拘束は簡単に解けた。
 「テメェ、何しとんじゃコラァ!!」
 逆上しつつもあまり暴力沙汰が目立たぬように気を使ってか、クラスメートは僕の脛にローキックを放つ。
 これもどうなっているのか、枯れ枝が引っかかった程度の衝撃しか感じられない。
 それどころか、クラスメートの蹴り足の方がやや曲がっているようにも見える。
 「足が!! うああああ!!」
 「何やってんだお前!!」
 狼狽えるクラスメート達を見て、僕はようやく察しがついた。
 (僕は本当に悪魔との取引をしていたのか!!)
 この力を試すように、他のクラスメートの脇腹を軽く殴る。
 ペキペキとした触感が腕を駆け上がると、そのクラスメートは血を吐いた。
 あばら骨が何本か折れてしまったのかもしれない。
 (!)
 思った以上の破壊力に驚きを隠せない。
 すこし茫然として手を握ったり開いたりしていると、残る一人のクラスメートは二人を連れて逃げ出していた。
 それを特に追いかける気はしなかったが、3人とすれ違う形で彼女がそこにいた。
 信じられないものを見たような、だがポジティブな意志を見せない表情だった。
 「あ、あの、これは。」
 彼女はその場でペタリと尻もちをつく。
 「もう、私はいらないね。守る必要がなくなっちゃったもの。」
 「な、何を言ってるのさ、僕は強くなったんだ。だから姫野さんを守ることだって――」
 「先、行ってて。」
 彼女はアスファルトに座り込んだまま両手を地に突き立て頭を落とす。
 僕はその言葉に従い10メートル程進んだが、やはり心配で彼女をそこからずっと見守っていた。
 しばらくして、彼女は立ち上がると学校へ向かって歩き出した。
 僕の眼前を通りかかる際に声をかけようとはしたが、彼女はこちらを気にも留めずに過ぎていってしまった。
 ――それ以来、彼女とは話していない。
 
 
 
  おかしい、やはりおかしい。
 あの一件以来、彼女は僕には興味が失せたように話しかけなくなったし、電話をかけても通じなくなっていた。
 かといって、様子を見る限り他に男が出来たとか言うわけでもなさそうで、彼女と僕は以前と同じようにクラスでは孤立した存在に戻っていた。
 彼女と過ごした甘い記憶だけが蘇っては、ぽっかりと空いた胸の隙間に塩を塗り込んでいく。
 寂しい。
 彼女は見ればすぐそこに居るのに、数メートルもあれば歩いて挨拶だってできるはずなのに、それが彼女に届かない。
 彼女の一挙一動を見つめては、寂しさと虚しさとせつなさだけがこみあげてきて、無気力になる。
 どうしたら以前のように彼女と過ごすことが出来るだろう。
 僕はそのことばかりで頭がいっぱいだった。
 ふうと頭の重さを机に預けようとすれば、その力で机がベキリと割れてしまった。
 この日常的に振るうにはあまりに過ぎたこの悪魔の力も僕は持て余していた。
 何をするにも、ちょっとした弾みで何もかもを破壊してしまうのだ。
 守る者の居ない過ぎた力はなんと虚しく不便なものだろう。
 割れた机に頭を突っ込んだまま、ハッと気づく。
 (守る者の居ない過ぎた力……守る……守る……?)
 彼女の最後の言葉を思い出した。
 「もう、私はいらないね。守る必要がなくなっちゃったもの。」
 ひょっとして、彼女は今の僕と同じなのではないだろうか。
 このクラスで恐らく最も弱い、僕を守ることで持て余した力を発散しアイデンティティを保とうとしたのか?
 (その為に僕に近づいた?)
 これが正しいのかは分からないけれど、何もしないよりは試してみる価値はあるのかもしれない。
 何より、この力は僕にはやはり過ぎた力だ。
 僕は思い立つと、窓を開けて学校を文字通り飛び出す。
 悪魔の力のお陰か、博物館までは駆けて7〜8分でたどり着くことができた。
 汗の一つすらもかいていない。
 件の本を見つければ、前回行ったのと同じように自らの血液を飛ばして強く祈る。
 「何の用だ?」
 またお前かと言わんばかりの調子で何者かの声が耳に入る。
 (オレを弱くしてくれ、頼む。)
 「なんだ、変わったことを言うヤツだ。まぁ良いだろう、ククク。」
 (ありがとう!!)
 「今回は取引料はサービスしてやろう。もっとも、前回頂いたものは返さんがね。」
 (前回頂いたもの?)
 「言っただろう? これは取引だ、ククク。」
 (まさか――)
 思わず口が開いた。
 「お前!! 姫野さんに何かしたな!!」
 「さあね、私は知らんよ。捧げたのは貴様自身だ。私は取引の対価として、その者の最も大切なものを頂いている。何を対価としたか、それは貴様しか分からんよ。それと、悪魔との取引に二度目があると思わない事だ。」
 耳もとで不快な高笑いが反響する。
 「こいつ!!」
 振り払うように腕を回すともう悪魔の声は聞こえなくなった。
 ゆっくりと目を開ける。
 自分の腕が薙ぎ払ったカタチに前方が影も形も無く消えてなくなった光景が広がっていた。
 「う、うそだろ、この力、もっと強くなってるのか!?」
 望みを奪われた僕はその結末に愕然とした。
 
 
 
  「あーテステス。」
 校舎に放送が響く。
 現在は午後の2時を回ったところ、昼休みが終わって皆が5限目の授業に臨んでいる時刻である。
 授業中の空気を切り裂く突如の放送に、学生、教師達は否応無しに耳を傾ける。
 「聞こえるか雑魚共、オレ様は1年B組の王崎。今日からこの学校を支配するものよ。男はオレに金を献上しろ。女はオレのモノになるなら許してやろう。従わないヤツはぶっ殺す。」
 校舎3階の壁の一画がボンッと吹き飛ぶ。
 その衝撃は学校全体を震わせるには十分な威力があった。
 「いいか、これは冗談じゃないぜ。」
 最後に一言付け加えると、3階の放送室から正門のある校庭へと僕は飛び降りた。
 窓からこちらを見下ろす生徒たちが僕を見てどよめいている。
 そのような中を切り開いて昇降口から一番乗りでやってきたのは、中途半端に学ランを着込んだ男たちだった。
 「おう1年坊、おめぇおもしれーことやってんじゃねーか!!」
 「俺たちとちょっとあそぼーぜ!!」
 ニヤニヤと笑いながらのしのしとやってくる。
 程度の知れた不良学生相手にまともに取り合うのも億劫だと思い、僕はふっと一息吹いた。
 「うおおお!?」
 強靭な肺から噴出される風は突風の如き圧力を持っており、やってきた男たちを昇降口まで吹き飛ばした。
 普通の人間なぞ、もう吐息一つで吹き矢のように飛んでしまうレベルなのだ。
 彼らと入れ替わるように、今度は強靭な体躯を誇るゴリラのような男が出てきた。
 他の連中とは違い、僕の起こした突風の中もジリジリと突き進んで向かってくる。
 その堂々とした佇まいと物怖じしない勢いは、このゴリラが今来た連中の頭であることを感じされた。
 「なんだ先輩、早速金を献上しにくるとは殊勝だな。」
 「あん? ワシのシマで何好き勝手やっとんじゃガキが。少しヤキをいれちゃるわ。」
 古臭いヤンキー口調のゴリラが拳を振りかぶる。
 以前の僕ならば、その動きだけで目を瞑ってしまい相手の為すがままであっただろう。
 だが、すでにもっとも大切なものを失ってしまった今の僕には恐怖などなかった。
 拳が僕の顔面にガツンとヒットする。
 しかし、その拳は僕の脳みそを揺らすことさえなかった。
 「キ、キサマ、一体何者じゃあ……。」
 「……。」
 僕はその質問には答えずゴリラのポケットから財布を抜き取ると、その暑苦しい胸板をシャボン玉を割らないように扱うようにそっと押した。
 「オホッ!!」
 ゴリラが呼吸を遮られたような発声をすると、両手両足を前に投げ出した姿勢で高速後退した挙句、花壇に突っ込んで昏倒した。
 窓から身を乗り出して観戦をしていた生徒たちも鎮まる。
 「チッ、たった2000円ぽっちかよ。シケてやがんな。」
 僕はわざわざ学校全体に見えるように財布から金を抜くと、大声で悪態をついた。
 「お前らは一人頭1万は持って来いよ!! それが嫌ならオレを倒してみな雑魚共ハハハハハハハハ!!」
 その言葉に反応してか、2階の窓から女生徒が身を投げ出す。
 まるで投身自殺でも図ったかのような彼女の姿は、見ていた学校の人間の殆どに息を呑ませたことだろう。
 だが僕は逆だ、この時を待ち望んでいた。
 当然、彼女がこの程度の高さから飛んだ程度では怪我一つ負うはずもないことはよく知っている。
 「王崎くん……。」
 彼女が足から華麗に着地する。
 不安、怒り、恐怖、そのどれとも違う感情をその顔に携えている。
 僕にはその姿が、まるで舞い降りた天使のように見えた。
 (彼女だ、彼女が来た!!)
 アレ以来一度も僕に話しかけてくることのなかった彼女が再び僕の前に。
 僕は昂揚する気分を必死に抑えながらも悪態をつく。
 「姫野さん。今更、何をしに僕の前に? 言っておくけど、説得しようったって無駄だよ。」
 彼女が来た理由、そんなことは分かりきっていた。
 (姫野さんが望んでいるものは、平和だとか平穏だとか、そんな場当たり的なものじゃあない。)
 「違うよ王崎くん。私は……。」
 言わなくても分かる、というよりも、その無邪気な子供が目を輝かせているような表情が全てを物語っていた。
 『戦いに来た。』
 二人の言葉が重なると、僕たちはお互いに満面の笑みを浮かべた。
 きっと彼女はずっと探していたのだ、己の力の意味を。
 これまでも、彼女はその力の強さのせいで誰とも相容れることが出来なかったのだろう。
 自分を知る人間程、その力の差故に摩擦を恐れ遠ざかっていく。
 弱い僕を守ることでそれを誤魔化そうとしたが、それは僕が彼女に依存するようになっただけで、本当の意味で彼女を認められたことにはならない。
 悪魔に付け入られれば簡単に奪われてしまう程に脆く儚いもの。
 だから僕は真っ向から受け止めることにしたのだ、彼女の力を、僕の弱さではなく強さで。
 僕たちは利き足に力を込めて大地を蹴飛ばし襲い掛かった。
 僕と彼女の拳骨が衝突し、強烈な衝撃波を生み出し辺りを吹き飛ばす。
 この時僕は初めて、愛しい彼女の肌に触れた。
 
  完
posted by 冬待 犬都 at 02:42| 息抜き | 更新情報をチェックする

2015年05月18日

Island walkerラフ10


 最終プロットの時点でデザイン変更があったソウイチローのマシン、アレスのラフデザインです。
時間があまりなかった為、今回は色なしです。

 201505142.jpg

 ヘルメスの時とはデザインコンセプトが変わっており、「足が速いマシン」ではなく「単純に強そうなマシン」となっています。
デザインもオーソドックスな2脚人型に変更し、カッコいいアクションの出来るマシンにしました。
まるでこっちが主役みたいだな、と感じさせられれば良いかと思います。
実際、アレスとソウイチローのキャラクターにはこいつらだけで短編一本書ける程度の設定は詰め込んであります。
あと、今気付いたのですが、姿勢制御用の尻尾を描き忘れました。
ヘルメスのデザインを一部引き継がせています。
武器はロングソード一本のみで「真の強者は武器を選ばない」のが僕の作風ですので、本当に何の変哲もない鉄の塊となっています。
ちなみに今回直立で描かなかったのは、ロボットは実際にさせたい動きを先に描いてしまった方が、デザインのイメージが湧きやすいと今回感じたためです。

 201505142-2.jpg

 手をどかすと、腰部はこんな感じになってます。
腹部から胸部にかけての部分がコックピットになっており、開く際にはアバラのようなアーマーが開き、腹部が左右に開きます。
脳みそは頭部のメットの中に収納され、排出される際はメットの前部が顔に被さるカタチで下り、後部が後ろ側へ開きます。

 非常に強力なマシンですが、1アクションでの可動部分が非常に多い為に手動操作が常人ではほぼ不可能なシロモノとなっております。
搭乗者であるソウイチローも初期設定に比べて操縦技術も1流に設定しなおしましたが、歩いたり剣を振ったり体を動かす程度が限界です。
脳みそのアレスのサポートが入ることにより、走る、ジャンプ、必殺剣等の複雑な動作がやっとできるようになります。
サイズは変わらず6メートル級、動力は太陽エネルギーと電力のハイブリッド。
マシンバトリングのチャンピオンのマシンで超有名機体、世界各地にライバルやファンが沢山居ます。
迅八も性能自体はかなりのハイスペックマシンだが、正々堂々対戦したらまず勝てない相手。
必殺技は大剣で万物を叩き斬る「一刀両断」、水も炎も超常現象も真っ二つ。

 それとおまけ。

 201505141.jpg

 今まで白黒画面での作業をあまりしなかったので、描き込み等の練習です。
サチに関しては性格に変更があったため、合わせて表情を少し柔らかくしてあります。
服の袖も、生腕の方がいろんな動きが出来ると思い、切りました。
コータに関しては、常に「ロリっぽくならないように」と念じながら、目を大きくし過ぎず、頭身が小さくならないように描いてます。
あくまで「美人系に扮する方が得意」な設定を崩さないようにしています。

 最後に、今更ですが作品タイトルに変更が入ると思います。
理由は「もっと分かりやすい名前にしたいから」です。
posted by 冬待 犬都 at 17:37| Island walker | 更新情報をチェックする
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